チェンジニアリングと言う言葉をご存じだろうか。変化・交換(Change)と工学(Engineering)を合わせた言葉です。意味としては二つあります。一つ目は、先達の開発した機器の一部を改良すること、二つ目は、不具合(トラブル)時にその問題の機器を丸ごと交換してしまえと技術判断をすることです。
後者の意味でのこの言葉は、私が若かった頃宇宙関係の現場(ロケット組立や試験)では自虐的によく使われました。
その頃の日本のロケットはN-IロケットやN-IIロケットでした。まだ米国からの技術導入部分が多く、いわゆるブラックボックス機器も搭載されていました。
(N-Iロケット)
https://ja.wikipedia.org/wiki/N-Iロケット
(N-IIロケット)
https://ja.wikipedia.org/wiki/N-IIロケット
日本が当初から開発に参入していない搭載機器が不具合を起こした場合、ある程度までは原因究明を行えるのですが、それ以上詳細には分析できない部分が出てきます。
国産開発の機器ならば、不具合の原因を部品レベルまで特定でき最適な対策を打てることが多かったのですが、米国製については上記制約や米国メーカの許可が得られずに最後まで追求できないことがしばしばでした。
ではどうするか。
その不具合を起こした(正確には、不具合を起こしているであろうとしか判断できない)機器を丸ごと予備品(交換用に準備していたもの)と交換するのです。このことを我々は、チェンジニアリングと呼びました。交換することでしか技術的な対処ができないからです。技術者としては非常に悔しいですが、それ以外の対処方法がないのですから仕方がありません。
特に思い出深いものにN-Iロケットの第1段機体(ロケット)の飛行時の制御を行う「フライトコントローラ」という機器がありました。もちろん米国製です。この機器は当時でも古い設計で、まだ真空管を使っていました。この機器がチェンジニアリングの対象に良くなっていました。
しかし誰が考えたのか、チェンジニアリングとはよく言ったものだと感心しています。
私は宇宙関係しか経験していないのですが、他の業界でも同じような言い方をしているところもあるのでしょうか? 教えていただきたいですね。
もう一つお話しましょう。昔は地上設備用の機器でも米国製が多くありました。それがまた非常に高価で修理部品や交換品(予備品)を準備するのもなかなか大変でした。そこである国内企業が、国産化をしようと勉強し、同じ機器を作ったのですが、性能が米国製よりも劣ったのです。
NASDA(現JAXA)の技術者も参画して色々解析をしたところ、その原因がわかりました。国産化しようと考えた企業の技術者は、オリジナル(見本とした米国製の機器)をそのまま踏襲(コピー)せず、国産品に反映しない部分を残したのです。具体的に言うと問題になる可能性があるので詳しくは言えませんが、彼の技術者の判断は理論的には間違っていなかったのです。しかし精度は落ちた。なぜでしょうか。それは、理論的な設計だけでは到達できない精度を米国の企業はプラスアルファの技術力で成し遂げたのです。
その後、彼の国内企業は、その部分までまねることで米国製と同等の性能が引き出せました。
教訓は、「まねるなら徹底的にまねろ」、「下手なオリジナリティは採用するな」でした。
皆さんはどうお考えでしょうか。似たようなことが、我が国の技術力発展の裏にはあったのでしょうね。
取締役 虎野吉彦
(2019年12月)