ロケット打ち上げ用の設備や装置、特に推進系のそれに使用される非常に値段の高い特殊継手(「接手」とも書く。)というものがありました。そのコストダウンと規格化のために種子島宇宙センター規格を制定したお話です。
ロケットを打ち上げるためには燃料(RJ-1、ヒドラジン、液体水素)や酸化剤(液体酸素、四酸化二窒素)、更にはヘリウムガス、窒素ガス、水素ガスなどが必要とされ、それらを貯蔵したり移送したりしてロケットや設備に使用されますが、そのためには、配管(チューブやパイプ)を使用する必要があります。
その配管どうしを繋ぐためには継手(フィッテング)がどうしても必要です。この継手には様々な規格があります。宇宙関係では、日本のJIS規格、米国民間のANSI規格、NPT規格、米軍のAN規格、MS規格などにより制定された継手を使っていました。
(ミニ知識)チューブとパイプの違い
チューブとはその外形の大きさでサイズを決め、パイプはその内径の大きさでサイズを決めます。例えば1/4インチのチューブとはその外形が1/4インチで、内径はそのチューブの使用圧力によって異なります。つまり、圧力が高ければ高いほど内径は小さくなります(チューブの耐圧を増さねばならないので肉厚が大きくなるからです。)。逆に、パイプは圧力が高いほど外形は大きくなるので、サイズを言われてもどの程度の太さかはわかりません。
継手とは、ある規格の入り口とある規格の出口があります(添付図を参照してください。)。
その入り口と出口の規格が一緒なら前述の規格に既に定められた部品番号(規格番号:AN〇〇〇 等)があります。
ところが、入り口と出口の規格が違う場合、既定の呼び名や番号がありません。
日本の推進系設備には日本の規格と米国の規格が混在していました(しかも軍の規格と民間規格)。ということは、規格の違う入り口と出口を持つ継手が必要になります。当初はこの継手を「特殊継手」と言っていました。いちいち製造図を起こし、これに基づいて整作してもらいました。このための費用が、通常の継手に比べ非常に高かったのです。通常の継手が数百円から数千円で購入できたのが、数万円から高いもので数十万円しました。
これを何とかしようと思い立ちました。
ちょうど私が種子島宇宙センターに勤務し推進系設備を担当していた時です。
まず高い理由を探しました。
(1)設計費用(特別に設計しなければならないため)
(2)製造費用(量産品ではないため)
(3)足元を見られた(冗談です)
などがその要因でした。
ならば、設計図は自分で作り、製造は安い業者に依頼すればいいのだと思い、それを実行しました。
製作してもらったのは町工場でしたが、最初に納入されたものは加工時のバリが取れてなく、2回ほどやり直しをさせてやっと満足のいく物が完成しました。その後に洗浄作業を行い清浄度を維持した状態の包装をするのです。
当時の継手が今も現役として使用されているようです。
残された問題は、その特殊継手を「特殊」ではないようにすることでした。そのために、種子島宇宙センター独自の規格を制定しました(本文の最後にある図を参照願います。)。
これにより、特殊継手の価格は一気に普通の継手とほぼ同じ価格になりました。
もう、40年以上も昔です。
(添付図)
出典:左 MONROE AEROSPACE 中央 藤原産業株式会社
元部下が見つけてくれました。昭和55年(1980年)の日付がありますね。
懐かしい資料です。
取締役 虎野吉彦
(2021年12月)