今から50年(2分の1世紀)ほど前にNASA(米国航空宇宙局)が打ち上げたパイオニヤ10号(1972年打上げ)やボイジャー1号(1977年打上げ)という人工衛星をご存じの方もいらっしゃるでしょう。
残念ながらパイオニア10号との通信は2003年に途絶えましたが、現在でも地球から53光年離れたアルデバラン(おうし座α星)の方向へ移動を続けており、順調にいけば170万年後にはアルデバランに到着すると予測されています。(光年:光が1年間に進む距離 ≒ 9.5兆km。余談ですが、山口百恵さんの歌「さようならの向こう側」の中にこの「光年」を時間として表現しているのではないかと思われる詩がありますが、もし「距離」ではなく「時間」として使っているのなら物理学的には誤用です。)
ところで、このパイオニヤ10号には次の図に示すプレート(金属板)が搭載されているのはご存じでしょうか(ボイジャーにも同様の目的で金属レコード盤が搭載されているようです。)。
ここには、地球の位置や人類の情報が載せられています。このような情報を(大げさに言えば)宇宙に公開していいのかという意見があります。もし悪意のある宇宙人がこれを見れば地球に侵略して来るというものです。可能性はないとは言えませんね。
(このプレートの話は第5回にも記載しています。)
話を元に戻します。
後から打ち上げられたボイジャー1号(ボイジャー1号 – Wikipedia)からはいまだにデータが地球に送られており、そのデータから既に太陽系を抜け出て本当の外宇宙へ出て行ったことが解っています。ここで感心するのは、当時のNASAの技術力です。2分の1世紀近くを経ても厳しい宇宙の環境でちゃんと機能を発揮している人工衛星を製作できたのです。
現在の技術が過去の技術より進んでいるとは全てのものについては言えません。これに関しては、いずれ宇宙こぼれ話でご披露したいと思います。
話は少しそれますが、私はJAXA(私が採用された当時はNASDA:National Space Development Agency of Japan、「宇宙開発事業団」と言いました。)出身でそのJAXAに入った理由の一つは反重力エンジンを作りたかったからなのです。願書にも「反重力エンジンを開発したい」とはっきり書きました。私が子供の頃によく見たテレビ番組(米国制)「アウターリミッツ」や「トワイライトゾーン」の影響です。さすがに、SFぽいと思い、入社後に狙ったのが深宇宙探査機(英語ではprobe[プローブ])の開発です(「深宇宙」の明確な定義はないのですが、私の感覚では太陽系以遠の他の恒星系のことだと思います。)。結局、宇宙輸送系(ロケット)部門への配属で、深宇宙探査機の開発はできませんでした。最もこれに近かったのは、「こうのとり」(HTV:H-II Transfer Vehicle「宇宙ステーション補給機」)の開発責任者になったときでしょうね。深宇宙とは比べられない近さ(国際宇宙ステーション(ISS)と同じ高度(約400km)まで)ですけど。
現在、人類が地球から打ち上げた人工衛星で最も遠い宇宙まで行った探査機は前述のボイジャー1号で、2011年12月5日に太陽系の外縁に到達したと発表され、2012年8月25日に星間空間に入った(太陽系を出た)と伝えられました。
現有の推進技術の限界により、この探査機を超える深宇宙への探査はまだ不可能ではありますが、ここに反重力エンジンがあれば、と思う次第です(他にも、反物質エンジン、光子ロケットエンジン、ビーム推進等があります。)。もしこのような推進技術ができれば、皆さんが生きているうちに他の恒星系のデータを見られるかもしれません。
深宇宙探査機が目的地に到着するのは、その開発者がいわゆる生物としては存在しなくなって何十年、何百年も経ってからですが、探査した恒星や惑星のデータを地球に送ってくるなんてとても面白いと言うか素晴らしいと思いませんか?
現在では想像図でしか見ることのできない異星の世界の実際の画像が送られてくるのです。私達は見られないのですが、人類の生き残りがそれを見るのです(もっとも、その時代まで現在以上の文明が維持されていることが条件ですがね。退化していれば、折角のデータもただの電波雑音に過ぎなくなります。)。
またまた話はそれますが、星野之宣氏の漫画の一つに、次のような話がありました。
未来(と言っても100年程度)の地球人は優秀なAIを搭載した恒星間探査船を(その時としては最先端の推進技術で)深宇宙へ発進させた。非常に高速ではあるがせいぜい光速の数%程度だった。ある時、流星群を回避できずに地球との超遠距離通信用システムが破壊され、地球との通信ができなくなった。
恒星間探査船を送り出して何十年か経った頃、地球では技術革新により光速に近い推進系を持った新型宇宙船が開発され宇宙各方面への探査が開始され、先の恒星間探査船と同一方向へも(有人で)送り出した。
この新型宇宙船は、途中で先の恒星間探査船に追いついた。先の恒星間探査船は異星人との接触も重要な任務の一つとしてあったので、この新型宇宙船を異星人のものだと思い、当然接触(通信)を試みた。しかし、この有人宇宙船はこれを受信したが返信はしなかった。その理由は、もしこの船が地球からのものだとわかると、優秀なAIは自分自身の任務や存在意義をどう感じ(且つ、優秀な頭脳ゆえ)どうなってしまうのかを考慮したからだ。
いかがでしょうか。私個人としてはジ~ンときましたね。というのは、いかに機械とはいえミッションを遂行しようとしたAIの気持ちと、あえて通信をしないと判断した新型宇宙船の船長の気持ちを思うからです。
なお、このAI恒星間探査船を開発して送り出したのはこの船長だったのです。AIとはいえ、過酷なミッションをさせながら、「君のミッションはもう不要だよ」とは言えなかったのです。
もう一つ紹介したいのは映画の「パッセンジャー」(原題: Passengers、 2016年の米国のSF映画。日本では2017年3月24日に公開。)です。
こちらは、5千人の乗員を人工冬眠により他の星系へ移民させるプロジェクトのお話で、目的地までまだ90年ほど必要だという行程の中で、流星の衝突により機械が故障して目覚めさせられた乗組員の話です。この映画の評価は、特に科学的・工学的な意味で分かれていますが、私は結構気に入っています。千円でDVDやBDが入手できます。深宇宙探査における人間とはどのような状態になるのだろう、というテーマでしょうか。暇なときにでもご覧ください。あなたはどちら(よかった、くだらん)の判定をされるでしょうかね。
深宇宙に存在するかもしれない「プラズマイマイ」、「ファントムーン」、「カタパルトリッパー」、「シエロス」、「メロディアスペース」、「タナトスカラベ」に会ってみたいと思います(「超・博物誌」山田正紀著より)。
取締役 虎野吉彦
(2022年5月)