私がJAXA(当時は宇宙開発事業団)に入社して間もないころの話です。その当時、ロケットの組み立てや打上げ作業を担当していましたが、ある時上司から「この熱交換システムの効率の確認をしてくれないか」といわれ、完成図書(*1)を渡されました。
(*1)完成図書とは、企業に発注して製造してもらったシステム(この場合、熱交換器を備えたガスの冷却設備)に関する設計根拠や取り扱い説明等を示したものです。
そこで、おもむろにトレース(計算過程を順を追って調べること)を開始したのですが、ある重要な結論を出す部分に使用した計算式が示されておらず、結果のみ記されていました。
これではその計算結果が正しいのかどうかは確認できないので、完成図書を納入したメーカの設計者に確認しました。ところが、「その部分は企業秘密ですから開示できません。」という返事が返ってきました。
えっ、そんなことがあり得るのだろうか、と思いこのことを上司に話しました。一方、私にも技術系としての意地があるので独自で計算してみました。利用したのは工学系学生の必携である「機械設計製図便覧」です。そこに掲載されているいくつかの公式や経験式を用いて計算したところ、完成図書に載っていた計算結果と「ほぼ同じ結果」が出ることを発見しました。
その裏で、上司はメーカ設計者に計算根拠資料を提示するよう説得して使用した計算式を入手していました。なんとその式は、私が機械設計製図便覧で見つけて使用した経験式と同じものでした。いや、厳密にいうとその式に使用している係数の一つが若干異なっていました。「ほぼ同じ結果」の理由はそこでした。この係数はいわゆる経験値というもので、研究者によって若干違うものです。
メーカの設計者が使用した係数と私の持っていた機械設計製図便覧に載っていた係数の違いがそこにあったのですが、これ(一般的になっている機械工学便覧に掲載された経験式を使うこと)が企業秘密と言うべきものかと思いました。もしそうなら情けないと言うしかありません。
みなさんはどうお思いでしょうか?
(第6回に同様の記述がありますが)ちょっと違う話です。前述の「機械設計製図便覧」についてです。機械工学関連だけではなくいろんな「便覧」があるのですが、この「便覧」をどう読むかについてです。皆さんはどう習いましたか。私は高校の国語の先生から「べんらん」と教わりました。ところが会社に入ってみると周りのほとんどが「びんらん」と読んでいました。
わたしが、「びんらん」は誤用だと主張しても受け入れてもらえませんでした。そこで、広辞苑で「びんらん」は「べんらん」の誤用である(辞書によっては、「べんらん」を見よとなっています)と示し、また「びんらん」は「紊乱」で「乱れること」だと示したのですが、完全には納得してくれなかったように思います。最初に刷り込まれたことを書き直すには相当の労力が必要なのですね。因みに現在では「びんらん」と読む方が更に多いようです。残念なことだと思います。「びんらん」と教えた国語の先生はもう少し勉強して欲しいものです。
便利な一覧なので「べんらん」なのです。
覚えやすいと思うのですがね~(杉下右京さん風に読んでいただければ幸いです。)。
顧問 虎野吉彦
(2022年8月)