宇宙こぼれ話

虎野 第25回 日本とフランスの技術力の差

 ギアナ宇宙センター(ギアナ宇宙センター – Wikipedia)をご存じでしょうか。
 そう、欧州宇宙機関(欧州宇宙機関 – Wikipedia)の射場(ロケット発射場)で、主にアリアンスペース社(アリアンスペース – Wikipedia)が使用しています。(私の第22回の宇宙こぼれ話にも出てきます。)
 かつて(30年ほど昔)私が民間の衛星運用企業に出向していたころに、その企業の(通信、放送を目的とした)人工衛星の打上げに利用したのが当時のARIANE-4(アリアン4)ロケットでした。
 必然的に打上げ作業に参画し、日本のほぼ真反対にあるフランス領ギアナ(北緯7度、時差は12時間)に駐留しました。
 その時に経験した自動車とロケットの技術の日仏比較の話です。

 まず、自動車の話ですが、フランス車はなんと真夏でもチョーク(キャブレター仕様のクルマに取り付けられている装置で、ガソリンと空気の混合気を濃くして、冷えたエンジンの始動性をよくするためのものです。)を引かないとエンジンがかかりませんでした。しかも北緯7度にある常夏のフランス領ギアナにおいてでもです。
 当時日本車でチョークがあったのは軽自動車の一部です。普通車はすでにチョークは必要ありませんでした。
 私に貸与されたのはフランス車(プジョー)でしたが、ドイツ車(ベンツ)を貸与された方に聞けば、チョークは必要ないとのことで、日本車と同じでした。
 これだけを見れば、当時は(から?)日本(とドイツ)の車の技術はフランスより進んでいたのでしょうね。
 フランス車でもう一つ驚いたのは、クラクションがハンドルの斜め下の方についており、クラクションを鳴らすのが日本車より少し面倒だったことです。きっと、このように面倒くさくしておかないとクラクションでうるさくてしょうがないからでしょう(ギアナではなくフランス本国の都会では。)。パリにも何度となく行きましたが、車のクラクションの騒々しさは日本の比ではありませんでした(当時)。
 更に驚いたのはパリでタクシーに乗っていた時、タクシーは信号待ちをしていましたが、信号が青になった途端、待っていた車の列がそのまままるで連結された電車のように一体であるかのごとくスタートした時でした。(皆さんご存じのように)日本なら、前の車が少し進んでから次の車が動き始めるのですが、フランスはそうではありませんでした。ぶつかるのではないかとハラハラしたのを覚えています。
 上述のクラクションの押し難さにも関係しているように思います(つまりフランス人はせっかち)が、これらのお話は全て30年ほど昔の話ですので念のため。

 こと宇宙関係(ロケット)についていえば、日本はすでに先端技術である液体水素/液体酸素エンジンの再着火(1度燃焼したエンジンを切り、再度着火させる)技術を持っていましたが、ARIANE-4ロケットは1度きりの着火しかできませんでした。液体水素/液体酸素の再着火技術は当時非常に難しく日本と米国しかできなかったのです。
 再着火によりロケットの運用の自由度が増す(具体的には、人工衛星の目標軌道への投入精度や質量が増す)のですが、液体水素/液体酸素のような極低温推進薬の再着火は無重力状態や熱の問題が絡んで複雑だからです。

 ここまで書いてきて最近思うことがあります。
 それは、テレビ番組で日本の技術がいかに進んでいるかを披露する番組の多さです。確かに進んではいるのでしょうが、部分的には中国や韓国にも抜かれている技術もあるように思えます。それは、研究開発費の投入額を見れば予測できます。研究成果や技術開発はアイデアや閃きも大切ですが、それに伴う実験や試作には巨額な経費が掛かります。
 最近の日本は国と言い企業と言い、その投資額がかの国たちに負けているのです。このままではいずれほとんどの技術が逆転されるでしょう。

顧問 虎野吉彦
(2022年12月)

虎野吉彦
執筆者
元顧問虎野吉彦