「ロケット発射場の話」
最近「土木技術」という月刊誌に載せていただいた小文を作成するために、改めて種子島・内之浦の発射場についてまとめるとともに、世界各国のロケットの発射場についても色々調べてみる機会がありましたが、紙面の関係等で書き切れなかったことも含めて何回かに分けて(色々脱線もしながら)掲載させて頂きたいと思います。
1 「打上げ発射場」の「用語」「範囲」など
「ロケット」といえば「打上げ発射場」、「発射台」というようなものが必ずある。まず、よく使われる「用語」として、以下に解説する。
(1)「発射台(Launcher、Launch Platform等)」
ロケットそのものを固定(あるいは支持)し、点火したロケットが離れていく部分 を示す。ロケットの設計や打上げに対する考え方などによって、台座(Mount)だけを指したり、各種の装置・機能を含める場合もある。「台」の形状とは限らず、トラス構造などで機体の中間部分を支えたり、レールに吊るしたり乗せたりするものだったりする場合も有るし、「発射装置」と呼ばれることもある。
(2)「射点(Launch Pad)」
ここではロケットを発射する場所(位置)を示す。例えば、発射台が移動してくる方式であれば、発射台の置かれる「ところ」のことになる。
(3)「発射施設(Launch Complex)」
ロケットそのものを打ち上げる(発射=飛び上がるまで)ための機能を持つ施設・装置群の「一まとまり(complex=複合体)」を一般的に指す。ロケットの種類や個々の発射場の事情・特性などにより種々の形態・構成・広さになる。
(4)「射場(Launch Site)」
ロケットそのものを「飛び上がらせる」ためだけでなく、下記のような機能を持つ施設・場所を加えたある広い範囲を使い分けて指すことが多い。
- ・ロケットやロケットに搭載する人工衛星などの宇宙機(「ペイロード」ともいう)を搬入し、整備・組立てを行う
- ・ロケット発射後の飛行状況の監視。データの取得、場合によってはロケットへの誘導や飛行中断の指令を行うなど、正常に軌道投入されるまでの必要な作業を行う
- ・上記を含めて必要なインフラ・組織の管理・運用を行う
現在の種子島宇宙センター(図-1)を例にすると、H2Aロケット用の「吉信第1射点」とH2Bロケット用の「吉信第2射点」(上記(2))とそれぞれの専用の「移動発射台」(上記(1))が大崎射場(上記(4))の中の「大型ロケット発射場」(=吉信Launch Complex、上記(3))にある(写真-1)。
同センターはそれ自体が「打上げ射場」として上記(4)に相当するともいえるが、「大崎射場」(図-1上方部)と今は使用されていない「竹崎射場」(図-1下方部)を分けて整備・扱った経緯もあり使い分けている。
図-1 種子島宇宙センターの概要 (JAXA提供)
写真1-1 吉信大型ロケット発射場 (JAXA提供)
(写真の中央少し上には発射場に併設されている第1段液体ロケットエンジン燃焼試験設備が見える)
写真1-2 (大型ロケット組立棟から射点方向を見る)
大崎・竹崎射場は続いた「敷地」で南北約6kmであるが、種子島にはこの他に、
・20km以上北にある「増田宇宙通信所」
・6km以上西にある「宇宙ヶ丘追跡所」
・10km位西南西にある「門倉光学観測所」
も一連の「射場」を構成する施設である。
さらに言えば、種子島からの打上げで内之浦宇宙空間観測所の施設を、内之浦からの打上げで種子島の施設を使うことも行われていて、種子島と内之浦で一つの大きい「射場システム」となっているといえる。(組織的には「鹿児島宇宙センター」と呼ばれている)
初回ということで、種子島宇宙センターを例にして、発射台、射点、射場、という呼び方のお話をさせて頂きました。(次回は種子島宇宙センターについてもう少し書きたいと思っています。)
(引用文献;「土木技術」第71巻 第2号 p8~9)