宇宙こぼれ話

長尾 第3回 ロケット発射場の話(3)

「ロケット発射場の話(3)」

3 世界の発射場

 まず、世界のロケット発射場全般について紹介します。JAXAの「宇宙情報センター」によく知られる発射場の所在地図が出ています。

 ちょっと前のものなので、これですべてではありませんし、小型(観測・実験)ロケットの専用のものだったり、既に使われてないものもありますが、それぞれどんなロケットを扱っている(いた)かについては、http://ebw.eng-book.com/pdfs/15399744bccb2155536e0feeca634222.pdfのデータも参考にして下さい。(使用している番号が異なりますので注意して下さい)

発射場の一般的特徴として、<1>海の「そば」か内陸・砂漠地帯か、という点と、<2>開けた方角と緯度がどうか、という事項があります。

(1)ロシア(旧ソビエト連邦)
 冒頭の地図には、前述サイトのデータ表「No.9」のスパボードヌイ発射場の「跡地」に最近新しい射場として建設が進められている「ボストチヌイ」発射場と、ドニエプルロケットを主に打ち上げている「ヤーヌスイ」発射場は記されていないが、それらを含めてロシア、旧ソビエトの発射場は、いずれも内陸の砂漠・原野の広大な場所にある。
  最も緯度の低いバイコヌール(カザフスタンにあり、ロシアが「借りて」いる)でも緯度は45度台でしかも国境の関係などから真東より少し北方向に打ち上げる必要があり、静止衛星打上げにはかなり不利な位置であるが強力なプロトンロケットにより欧米並みに静止衛星を頻繁に打ち上げている。

(2)米国
  米国は「海のそば」方式がはっきりしていて、主にそれぞれ広大な面積を持つ、アポロ、スペースシャトルで有名なフロリダ半島のケープカナベラル(名称はいろいろありますね)が低緯度で東向き打上げ、バンデンバーグ発射場が南向き打上げ、と「使い分け」ています。他にワロップス(少し緯度が高い東向き、面積は種子島宇宙センターの2.5倍程度で、サイズ的には小型専用でしたが最近は少し大型のアンタレスロケットによりシグナス宇宙船を打ち上げている)、アラスカ州のコディアック(南向きで固体ロケット用)、マーシャル諸島(米国の自由連合盟約国)のクェゼリン発射場(かつて小型のファルコン1ロケットを5回打上げた。北緯8度)、ハワイの太平洋ミサイル試射場(2015年11月SPARK固体ロケットによる人工衛星打上げに失敗、北緯22度)なども「海の側」にある。(後者2つは頭書の地図、サイトに記載は無い)
  また、米国でも砂漠地帯にあるもっと広大なホワイトサンズミサイル実験場は、ロケットの実験場としても歴史的に有名であるが、人工衛星の打上げを行ったことはない。最近の米国の「宇宙港」としてカルフォルニアのモハーベ空港とともに利用が活発になっているようである。
  この他に、特殊な発射システムとして、海上打上げ・空中発射方式がある。(後述します)

(3)欧州関係
  現在、フランス領ギアナにあるクールーの発射場(北緯5度)が有名ですが、フランス、ドイツ、イギリス、イタリア等の絡む欧州のロケットには、色々な歴史・変遷・経緯があります。

・1965年に世界で3番目に独自のディアマンロケットで人工衛星打上げに成功したフランスは、当初アフリカ砂漠地帯のアルジェリアのアマギール発射場(北緯31度、冒頭の地図・サイトには記述無し)を使用していたが、3年4機打上げ後にクールー発射場を建設して移り、その後欧州宇宙機関(ELDO→ESA)のロケットを東~北に開けた海の方向に打上げを行っています。

・イギリスは1950年代からオーストラリアのウーメラ試験場(南緯31度、内陸で世界一広大な立入制限区域が設定されている)で液体ロケット(ミサイル)の開発を行っていた。そのロケットを第1段とした、最初の欧州宇宙機関(ELDO)のヨーロッパロケット(中型ロケット)は1964年から試験飛行が始まり、1968~70年の3回の人工衛星打上げはすべて失敗した。しかし並行して開発された小型ロケットのブラックアローが1971年に1度成功(世界で6番目)して以降は行われていない。なおウーメラ試験場からは、1967年に米国のスパルタロケットにより1基のオーストラリアの人工衛星が打ち上げられていて、サンマルコ発射場にすぐ続いて南半球から2番目の人工衛星打上げを記録した。

・イタリアは、南緯2度のケニア沖合いにサンマルコ海上発射基地を建設し1964年から使用開始し、1967~88年の間に米国のスカウト(固体)ロケットにより9基の人工衛星を打ち上げた。

 上記の例は、いずれも緯度が低く海が開けているとか、広大な砂漠地帯があるような本国外の箇所を発射場として選んだ例でもある。
  欧州のロケット発射場としては、この他に観測ロケット専用ですが、ノルウェーのアンドーヤとスウェーデンのエスレンジが知られています。いずれも1960年代初頭から使用されていて、多くの国が利用しています。北緯70度に近く、最も北にある発射場です。

(4)中国
  中国は内陸にある、酒泉、太原、西昌の3発射場が主力で、いずれも標高が1000m以上あるのは(空気が薄いなど、少し)有利な点である。酒泉では1970年日本に続き世界で5番目の人工衛星打上げに成功し2003年には有人ロケットでの神舟打上げを開始、比較的低緯度(北緯28.5度)の西昌では静止衛星打上げを行っているが、最近、東~南方向に海の開けている海南島(北緯19度)の発射場を大幅に拡充(文昌と命名)し、石油系の燃料を使用する新たな大型ロケットも開発して切り替えていこうとしています。

(5)インド
  インドは、スリハコタ(サティス・ダワンともいう)発射場(北緯14度にあり東~南に海が開けている)から1980年に全段固体燃料の小型ロケットにより世界で7番目の人工衛星打上げに成功した(全段固体ロケットとしては米国、日本に次ぐ)。以降、ロケットを順次大型化(液体燃料化)し2008年には月探査機、2013年には「世界一安い」火星探査機打上げを行い、翌年アジアで初めての他惑星周回衛星軌道投入に成功した。(日本のあかつきは金星周回軌道投入に2010年に失敗後2015年に成功)
  他にインド大陸のほぼ南端にあるツンバ発射場からは1963年以降1000機以上の観測ロケットを打ち上げている。

(6)イスラエル
  1988年の世界で8番目の成功以降、パルマチン(パルマヒム)空軍基地(北緯32度)より地中海に向けて、世界で唯一西方向(反自転方向なので衛星の軌道速度の1割分は損な初速状態からの打ち上げ方になる)に打ち上げて人工衛星を投入させている。(ロケットはやや大きめの小型ロケット)

(7)イラン
  2009年に世界で9番目に小型のロケットにより、人工衛星打上げに成功。セムナーン(北緯35度、標高約1100m)という内陸高地(砂漠)の発射場から南東に向けて打ち上げ、砂漠上空を飛行しインド洋に抜けて飛んで行く。また、2013年にはサルを乗せて300km程飛行・着陸させたというニュースがあった。

(8)北朝鮮
  以前は1998年以降(2009年まで)いわゆるテポドンミサイルを日本海側の少し北にある舞水端里(ムスダンリ)発射場(北緯40度。ノドン等の小型ミサイル実験は1984年から実施)から東に向けて人工衛星打上げと称して打ち上げていたが、その後、黄海沿岸の中国寄りの東倉里(トンチャンリ)に発射場を移し、2012年12月に中型サイズの「銀河3号」により世界で10番目の人工衛星打上げに成功。東倉里からは南方に打上げ、初成功として太陽同期軌道にいきなり投入したのは「記録」である。

(9)韓国
  1993年から黄海沿岸で小型試験ロケットを5機ほど打ち上げた後、本格的な射場として半島南の道路でつながる外羅老島の南東側に羅老宇宙センターを建設し、2009年以降ロシアが開発の新型ロケットの第1段に国産第2段を組み合わせた羅老ロケットによる人工衛星打上げを始め、北朝鮮にわずかに遅れる2013年1月に世界で11番目の人工衛星打上げに成功した。
  センター内にはロケットエンジン燃焼試験設備も整備されていて、2016年からは全段自主開発のKSLV-Ⅱ用液体エンジンの試験が本格化している。

(10)ブラジル
  人工衛星打ち上げ用ロケット(全段固体燃料)を開発し1997年から2度打上げたものの失敗し、2003年には準備作業中に爆発事故が発生してその後中断し、「未成功状態」である(2016年6月現在)唯一の国である。発射場は、クールーと同様に北~東方向に海の開けたアルカンタラ(南緯2度)で1990~2010年の間に上記の他33機の観測・実験ロケット打上げが記録されている。(現在も使用中)
  この他にブラジル東端のバライラ・ド・インフェルノ射場(南緯6度,NATALとも呼ばれる)が1965年から使用されていて、230機以上の観測ロケットが打ち上げられている。

(11)その他の国 
  頭書の地図・サイトで紹介された、および人工衛星を打ち上げた(日本以外の)発射場は上記の通りで、他に知られているものを以下に紹介します。(これで全て、とは言いませんが。)

・インドネシアのパームングプーク(南緯7.5度で南側に海が開けている。1965年に日本のカッパロケット、1987年以降も打上げ、固体ロケットによる人工衛星打上げ計画の構想情報もある)・カナダのフォートチャーチル(北緯59度、北向きに1955~89年に米国固体観測ロケットを3500機以上打ち上げている)

・パキスタンのソンミアニ(北緯25度、海際で南方に開ける。1962年から使用している)、マシュフード(Tilla衛星打上げセンターとも云われる、北緯33度付近の内陸部で1998年頃から北朝鮮のノドン系のガウリ打上げを実施、と云われる)

・南アフリカのDenel Overbergテストレンジ(南緯35度、アフリカ大陸南端海際。1989~90年にイスラエル系の固体ロケットを打ち上げ。その後衛星打ち上げ計画はキャンセルされたが、最近再スタートしたとの情報もある)

・アルゼンチンでも太平洋岸のバイアブランカでロケットの打上げを実施しているという情報がある。

(12)移動式海上プラットフォーム打上げ、海中/空中発射打上げ 
  前述の発射場は、陸上あるいは固定された海上からの打上げ方式であったが、静止していない移動体からの打上げ方式もある。

  • (a) 移動式海上プラットフォーム方式;ロシアのゼニットロケットをカルフォルニアを母港とするシーロンチ社(米ロ/ウクライナにプラットフォーム担当ノルウェーの合同出資)により1999~2014年に36機ほとんどを赤道直下からの静止衛星ミッションで打ち上げた。

  • (b) 海中発射方式;ロシアが潜水艦発射ミサイル(SLBM)のSS-N18を転用した「VORNA」液体ロケットにより1995年から打上げを開始。弾道飛行含めて2005年までに5機ほど打ち上げたが人工衛星投入には至らず、2012年に継続しないことが発表された。

  • (c) 航空機発射方式;米国オービタルサイエンス社が1990~2013年の間に42機の固体燃料ペガサスロケットを航空機から発射してかなりの成功率で人工衛星を軌道投入している。ミッションに応じて母船(発射する航空機)の基地は選択され、米国内の主要ロケット3発射場の他、低緯度のクェゼリン諸島も使用されている。
      高度12kmから水平方向に航空機の対地速度を「初速」として加えられる点が打上げ能力上の利点となるが、航空機による運搬能力等が制約になる。
      この方式の衛星打ち上げ方式の先駆者として(一般にはあまり知られていないが)1958年に6回行われた「NOTS」ロケット発射がある。このうち2機については軌道投入に至ったかもしれないと言われているが、わずか1kgのもので不確かだったこともあり人工衛星としては登録されていない。
      最近では、米国ヴァージンギャランティック社製LauncherONEやルーマニア民間ARCA Space製Haas2液体ロケットによる航空機発射人工衛星打上げ計画も報道されている。

  • (d) 気球発射方式;(無人の)気球により高度を稼ぎ(32kmという例有り)、そこからロケットを打ち上げる方式も昔からあり、観測ロケットとして、米国で1953~57年ヴァンアレン、1956~59,61年に東京大学により高度100kmあたりの高層観測に使用されている。その後もより大型化したものが散発的に打ち上げられている。打上げ中止時に回収/元に戻すシステムにするのは難しく、人工衛星打上げ用には向かないシステムであるといえる。

 最後に日本のロケット発射場ですが、内之浦、種子島とその前身の道川海岸(秋田)、新島や1970~2001年の間気象庁が合計1119回観測ロケットを打ち上げた三陸町綾里の射場、北海道大樹町でのカムイロケットやインターステラテクノロジー社の発射場はいずれも海に向けて打ち上げるパターンです。(秩父の山中などで打ち上げる「龍勢」ロケットというのもありますが、規模的には・・)

 ここで次回から「脱線」に入りたいと思いますが、最初は発射場の位置とロケットの打ち上げ方(必要機能・性能)との関係から触れたいと思います。

長尾隆治
執筆者
取締役 技師長長尾隆治